中国春蘭の香り
子供の頃から蘭という植物が好きになって、老年になったら寒蘭や春蘭を育ててみようと思っていました。とはいえ歳を取ってからでないと手を出さないという決め事をしていたわけでもないので、振り返ってみるといつも数鉢の東洋蘭を育てていたように思います。
昨年あたりからそろそろ本腰を入れて育てようと思い、寒蘭を数点求めてみたりしました。今年は今まで一度も育てたことが無かった、中国春蘭を育てたいという気持ちになりました。切っ掛けはたまたま見掛けたお店で咲いていた、とても良い香りの春蘭が中国春蘭だと知ったからです。
この花は「大富貴」という銘品でとても良い香りがします。
子供の頃、実家のすぐご近所に日本春蘭を育てておられる方がいました。年の頃は五十歳くらいだったかと思います。時々蘭を見せてもらいに伺って、色々と興味深いお話を聞かせていただきました。羽蝶蘭をやっていたのもその方で、そこで見た羽蝶蘭の可憐な姿にずいぶんときめいたものです。
当時の日本春蘭は葉芸品種がほとんどで、赤花はまだ珍しいものだったと記憶しています。ただ一鉢、大事にされていた赤花の日本春蘭がありました。山で見るものとはずいぶん違うのだなぁと、今にして思えば素朴な感情でみていたように思います。
日本春蘭は基本的に香りが無いといわれています。早春の山を散策するときに、時々シュンランの花の匂いを確かめてみますが、微かにほこりっぽい匂いがするか、キノコのような香り? を感じるものがある程度で、お世辞にも良い香りのシュンランには出会ったことがありません。
中国の蘭は一花と九花という分け方があって、一つの花茎に花が一つ咲くものと、複数咲くものを厳密に分けています。写真の花は雪蘭という一花蘭で、中国奥地蘭と呼ばれる比較的新しい分野の蘭です。白花といわれる素心の品種で、「白雲」という名が付いています。これもまた良い香りのする蘭で、一花の代表格である中国春蘭とは少し違った香りです。
甘い香りと表現すると、少しくどさを感じるイメージがあるかもしれません。この雪蘭の香りは甘さはあってもスッキリしている、雑味のない甘い感じです。寒蘭の香りにちょっと似ているかもしれません。フウランの香りを少し人工的にしたようなといえばいいでしょうか。
アップにするとだいぶ老けてしまっているのが分かりますね。最初の頃より香りは弱くなりましたが、まだ甘い香りで楽しませてくれています。雪蘭のように細い立ち葉になる蘭は他にも多くて、春剣蘭、糸蘭、朶朶香(だだこう)といった奥地蘭があるようです。最近は輸入も盛んに行われているようで、香りの良い蘭もいろいろありそうで楽しみです。
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